SpectraMax iD3を用いた細胞生存率アッセイ

利点

  • SpectraMax iD3プレートリーダー用に最適化されたアッセイで、アッセイ開発にかかる時間を節約
  • 細胞の取り扱いを最小限に抑えた簡単なホモジニアスアッセイ
  • 高解像度タッチスクリーンで、測定条件の迅速なセットアップ
  • SoftMax Proソフトウェアにプリセットされているプロトコルにより、データを迅速に解析

はじめに

生存率およびアポトーシスを調節するシグナル伝達経路上の様々なパラメータで細胞の機能を評価することで、候補薬剤、経路のアクチベーター・インヒビター、そして、レポーター遺伝子導入などに対する細胞の応答がわかります。細胞の機能を評価するアッセイの最も一般的な手法として、マイクロプレートリーダーを用いた蛍光検出があります。このアプリケーションノートでは、SpectraMax® iD3マルチモードマイクロプレートリーダーを使用したEarlyTox™ Cell Viability Kitのアッセイをご紹介します(図1)。

 

図1. 細胞生存率アッセイの代表的な実験ワークフロー

EarlyTox Live / Dead Assay Kit

このキットには、哺乳動物細胞に適した生細胞ならびに死細胞用の2種類のマーカーが含まれています。Calcein-AMは、広く用いられている生細胞マーカーです。CalceinAMは非蛍光性ですが、損傷のない細胞膜を透過した後、細胞内エステラーゼの作用により蛍光性Calceinに変換されます。Calcein-AMにより、生細胞の細胞質基質が強い緑色蛍光に染色されます。細胞増殖アッセイまたは生細胞染色のみを必要とするその他のアッセイには、EarlyTox™ LiveCell Assay Kitに含まれるCalcein-AMを単独の試薬として用いることができます。エチジウムホモダイマー III(Ethidiumhomodimer-III; EthD-III)は、そのままの状態では非蛍光性であり、損傷のない細胞膜を透過しません。細胞死に伴い細胞膜の完全性が損なわれると、EthD-IIIは細胞内に入り、核酸と結合します。その結果、死細胞において鮮やかな赤色蛍光を発するようになります。この方法を用いて、細胞膜の完全性に影響を及ぼす細胞毒性を正確に評価することができます。CalceinおよびEthD-IIIの蛍光シグナルは、SpectraMax iD3プレートリーダーを用いて検出することができ、SoftMax® ProソフトウェアにプリセットされているEarlyToxLive/Dead Assay Kit用のプロトコルを用いて迅速に解析することができます。

EarlyTox Glutathione Assay Kit

このキットでは、グルタチオンに高い親和性をもつ細胞透過性色素モノクロロビマン(monochlorobimane; MCB)を用いて、細胞内グルタチオン濃度を測定します。MCBとグルタチオンは、内因性のグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)酵素の触媒作用により反応し、励起波長394nm、蛍光波長490nmの青色蛍光を発します。この蛍光強度は細胞内に存在するグルタチオンの量に対応しており、アポトーシスにより上昇します。EarlyTox Glutathione Assay Kitは、他社の代表的なアッセイと異なり、アッセイの結果に影響を及ぼす可能性のある細胞回収や遠心分離、溶解、その他の時間のかかる操作を必要としないため、マイクロプレート上の損傷のない生細胞を評価することができます。SoftMax Pro ソフトウェアで行う測定条件の設定やデータ解析については、プリセットされたEarlyTox Glutathioneプロトコルが使用可能で、簡素化されています。

EarlyTox Caspase-3/7 R110 Assay Kit

EarlyTox Caspase-3/7 R110 Assay Kitは、マイクロプレートリーダー用に特別に設計された、試薬の添加が1回で済むホモジニアスアッセイです。(Ac-DEVD)₂-R110は、DEVDの2つのコンセンサス標的配列を有する蛍光基質であり、連続する2段階の酵素反応により細胞ライセート中で完全に加水分解されます。2つのDEVDペプチドが加水分解されると、緑色蛍光色素であるローダミン 110(R110)が遊離し、励起波長490nm、蛍光波長520nmの蛍光を発するようになります。簡素化されたワークフローにより、一般に多数の細胞を必要とするこのようなアッセイで細胞数を減らすことができるほか、複数の操作で生じる結果のばらつきも低く抑えることができます。EarlyTox Caspase-3/7 R110Assay Kit 用のプロトコルも、SoftMax Pro ソフトウェアにプリセットされています。

 

材料

  • EarlyTox™ Live/Dead Assay Kit
    • Explorer Kit(プレート2枚分、モレキュラーデバイス、R8340)
    • Bulk Kit(プレート 10枚分、モレキュラーデバイス、R8341)
  • EarlyTox™ Glutathione Assay Kit
    • Explorer Kit(プレート2枚分、モレキュラーデバイス、R8344)
    • Bulk Kit(プレート 10枚分、モレキュラーデバイス、R8345)
  • EarlyTox™ Caspase-3/7 R110 Assay Kit
    • Explorer Kit(プレート2枚分、モレキュラーデバイス、R8346)
    • Bulk Kit(プレート10枚分、モレキュラーデバイス、R8347)
  • HeLa 細胞(ATCC、CCL-2)
  • スタウロスポリン(Sigma、S5921)
  • 96 ウェルクリアボトム黒色プレート(Corning、3904)
  • SpectraMax iD3マルチモードマイクロプレートリーダー

 

方法

細胞の処理

クリアボトム黒色プレートに1ウェルあたり20,000 cells/100 µLとなるようにHeLa細胞を播種しました。これらの細胞を、37℃、CO₂濃度5%に設定したインキュベーターを用いてオーバーナイトで培養し、プレートに接着させました。その後、細胞にアポトーシスを誘導しました。Live/DeadAssayでは、10µMから40nMまで2倍の段階希釈をしたスタウロスポリンで24時間処理しました。Glutathione AssayおよびCaspase-3/7 R110 Assayでは、5µMから5nMまで2倍の段階希釈をしたスタウロスポリンで4時間処理しました。各濃度で4ウェルずつ(n=4)、実験を行いました。

EarlyTox Live/Dead Assay Kit

Calcein-AMおよびEthD-IIIを6µMとなるようにそれぞれの原液をリン酸緩衝塩類溶液(PBS)に添加し、Calcein-AM/EthD-IIIの2倍濃縮溶液を調製しました。この溶液を100µLずつ各ウェルに添加し、最終容量を200µL、それぞれの色素の最終濃度を3µMとしました。プレートを室温で1時間保温した後、SoftMax Proソフトウェアで表1のようにプリセットされたプロトコルを用いて、SpectraMax iD3で測定しました。なお、培地を除去し、Calcein-AM/EthD-IIIの1倍希釈溶液を添加することも可能です。これはバックグラウンドの蛍光を低減する必要がある場合に有効です。SoftMax ProソフトウェアにプリセットされたEarlyTox Live/Dead Assayプロトコルにより、緑色・赤色比を自動的に算出し、化合物濃度に対してプロットしました。このプロトコルでは、必要に応じてサンプル中の生細胞と死細胞の割合を算出することもできます。これらの計算には、測定プレートに追加の対照サンプルを設定する必要があります。

EarlyTox Glutathione Assay Kit

10mMのMCB原液20µLを10mLのPBSに希釈して、20µMのMCB溶液を調製しました。測定プレートの培地を除去し、MCB溶液100µLを分注しました。細胞を37°Cで培養しました。試薬を添加してから1時間後および2時間後に、表1に示す設定でSpectraMax iD3を用いて蛍光強度を測定しました。

Parameter EarlyTox Live/Dead EarlyTox Glutathione EarlyTox Caspase-3/7 R110
Read mode Fluorescence Fluorescence Fluorescence
Read type Endpoint Endpoint Endpoint
Wavelengths Lm1: Ex = 495nm, Em = 530nm
Lm2: Ex = 530nm, Em = 645nm
Ex = 394nm, Em = 490nm Ex = 470nm, Em = 520nm
PMT and Optics PMT gain: Automatic
Integration time: 500 ms
Read from bottom
PMT gain: Automatic
Integration time: 500 ms
Read from top or bottom
PMT gain: Automatic
Integration time: 500 ms
Read from top or bottom

表1. SpectraMax iD3マルチモードマイクロプレートリーダーの設定
蛍光測定モードを搭載した他の SpectraMaxシリーズプレートリーダーでも同様の設定で測定可能です

EarlyTox Caspase-3/7 R110 Assay Kit

基質アッセイバッファーは、細胞ライセート・アッセイバッファー1mLに対して、2mMの酵素基質(Ac-DEVD)₂-R110を50µLの比率で添加して調製しました。基質用アッセイバッファー100µLを各ウェルに添加し、1ウェルにつき最終容量200µL、最終濃度50µMとしました。その後、サンプルを室温で保温しました。試薬を添加してから1時間後および2時間後に、表1に示す設定を用いてSpectraMax iD3で蛍光強度を測定しました。

 

結果

EarlyTox Live/Dead Assay Kit

スタウロスポリンで処理したHeLa細胞は、はっきりとした濃度依存的な反応を示しました。生存率は生存シグナル(緑色蛍光)に対する死亡シグナル(赤色蛍光)の割合として容易に定量することができました(図2)。全般的に、相対蛍光単位(RFU)は、2時間培養した細胞の方が1時間培養した細胞よりも高値でした(データ割愛 )。4パラメーターカーブフィットにより求めた50%効果濃度(EC₅₀ )は、300nMでした。

図2. EarlyTox Live/Dead Assay:スタウロスポリンで 24 時間処理した HeLa 細胞の濃度反応曲線
細胞にCalcein-AMおよびEthD-IIIを添加して1時間培養しました。濃度曲線は赤色蛍光(波長645nm)に対する緑色蛍光(波長530nm)の相対蛍光強度(RFU)比をY 軸にとり、プロットしました。SoftMax Proソフトウェアの4パラメーターカーブフィッティングを用いて作製しました。EC₅₀ は、300nMでした。

EarlyTox Glutathione Assay Kit

スタウロスポリンで4時間処理したHeLa細胞を、EarlyTox Glutathione Assayを用いて測定したところ、アポトーシスに伴う細胞内グルタチオンの減少が示されました。SpectraMax iD3により、スタウロスポリン濃度の上昇に伴う蛍光強度の減少が検出されました。結果は、SoftMax Proソフトウェアの4パラメーターカーブフィッティングでグラフにしました。アッセイの培養時間を1時間から2時間へと延長すると蛍光強度は継時的に上昇しましたが、EC₅₀ については、それぞれ263nMおよび295nMとあまり変わりませんでした(図3)。

図3. EarlyTox Glutathione Assay:スタウロスポリンで4時間処理したHeLa細胞の濃度反応曲線
細胞に試薬を添加して1時間(緑色)または2時間(青色)培養しました。濃度曲線はSoftMax Proソフトウェアの4パラメーターカーブフィッティングを用いて作製しました。EC₅₀ は、それぞれ263nMおよび295nMでした。

EarlyTox Caspase-3/7 R110 Assay Kit

スタウロスポリンで4時間処理したHeLa細胞は、EarlyTox Caspase-3/7 R110Assayにおいてアポトーシス反応を示しました。アポトーシス細胞に由来する蛍光をSpectraMax iD3で検出しました。結果は、SoftMax Proソフトウェアの4パラメーターカーブフィッティングでグラフにしました。基質とともに1時間または2時間保温した細胞のEC₅₀ は、それぞれ193nMおよび200nMであり、類似していました(図4)。

図4. EarlyTox Caspase-3/7 R110 Assay:スタウロスポリンで4時間処理したHeLa細胞の濃度反応曲線
細胞に試薬を添加して1時間(赤色)または2時間(青色)培養しました。濃度曲線はSoftMax Proソフトウェアの4パラメーターカーブフィッティングを用いて作製しました。EC₅₀ は、それぞれ193nMおよび200nMでした。

 

結論

EarlyTox Cell Viability KitとSpectraMax iD3を使用することにより、マイクロプレートアッセイがもたらす簡素なワークフローと高いスループットで、生細胞、死細胞またはアポトーシス細胞を直接測定することが可能です。時間の経過に関係なく一貫した結果が得られ、ワークフローに柔軟性が生まれます。プリセットされたSoftMax Proソフトウェアのプロトコルによる最適化済みの測定条件と自動データ解析を活用して、迅速に結果を得られます。

SpectraMax iD3マルチモードマイクロプレートリーダー

SpectraMax iD3は、大型の高解像度タッチスクリーンを備え、ソフトウェアパッケージも搭載しています。これらの特徴によって、専用のコンピューターワークステーションを必要とすることなく、カスタムプロトコルの設定や設定済みプロトコルの利用、そして、実験が可能です。近距離通信(NFC)機能を搭載しており、ワンタッチでカスタムプロトコルや結果にアクセスでき、貴重な時間を節約できます。