アプリケーションノート

近赤外蛍光を用いた細胞内
活性酸素種の測定

利点

  • ワンステップ、ホモジニアス、蛍光アッセイを用いて、細胞内ROSを迅速に測定
  • 超冷却 PMTによりバックグラウンドノイズ低減しアッセイ性能を改善
  • スペクトル最適化ウィザードを用いて励起と測定波長の組み合わせを最適化

PDFダウンロード

SpectraMax iD5マルチモードマイクロプレートリーダーについて問い合わせる

イントロダクション

活性酸素種 (ROS) は酸素を消費する細胞代謝から生じる、酸素を含んだ化学的な反応分子です。これらの化学種はシグナル伝達、恒常性維持や免疫学的防御のような細胞プロセスに関与します。しかしながらストレス環境下においては、細胞内 ROS レベルは劇的に増加し、脂質、タンパク質そして核酸に酸化障害を起こすことがあります1。 これらの酸化障害は男性の不妊症、発がん、そしてその他の多くの病理学的イベントに関わっています2

通常、細胞内 ROS レベルの測定には蛍光プローブ (緑の蛍光プローブが最も一般的) が用いられます。しかしながら、緑色蛍光範囲での検出やイメージングには細胞自家蛍光により影響を受ける恐れがあります3。細胞自家蛍光からの干渉を避けるために、赤外または近赤外 (NIR) 蛍光色素を ROS レベルの測定に用いることができます。

SpectraMax® iD5 マルチモードマイクロプレートリーダーの特許技術、超冷却 PMT と4-モノクロメーター光学経路設計はシグナルバックグラウンドと迷光を減らします。それにより近赤外蛍光アッセイにおいて広いダイナミックレンジと感度を実現します。

ここではSpectraMax iD5 リーダーと二つの蛍光キットを用いた ROS レベルの測定法について示します。スペクトル最適化ウィザードを用いて近赤外アッセイに対する励起と測定波長組み合わせを最適化しました。さらに、緑色蛍光定量的アッセイと近赤外蛍光定量的アッセイとの間での性能を比較しました。

マテリアル

  • Cell Meter™ Fluorimetric Intracellular Total ROS Activity Assay Kit *Deep Red Fluorescence* (AAT Bioquest cat.#22903)
  • Cell Meter™ Fluorimetric Intracellular Total ROS Activity Assay Kit *Green Fluorescence* (AAT Bioquest cat.#22900)
  • HEK 293 細胞 (ATCC ##CRL-1573)
  • ビタミン K3 (Menadione)(Sigma cat #M9429-25G)
  • 96-ウェル細胞培養用ボトムクリア黒色プレート (Greiner cat. #655087)
  • SpectraMax iD5 マルチモードマイクロプレートリーダー(Molecular Devices cat. #uD5)

手法

HEK293 細胞を 96-ウェル細胞培養用マイクロプレートにウェル当たり 10,000 細胞播種し、37℃ インキュベーターで 24 時間培養しました。その後、細胞を 25 μM から始まる二倍の希釈系列のメナジオンで 1 時間処理しました。処理後、Cell Meter Deep Red ROS 検出試薬またはCell Meter Green Fluorescence ROS 検出試薬のいずれかを細胞に加え、37℃ で 30 分間インキュベートしました。

Cell Meter Deep Red ROS アッセイの推奨波長ペア (658/675) は励起と測定の波長が近接しすぎているため SpectraMax iD5 リーダーでは対応していません。この実験では、まだ十分な蛍光シグナルを出す一方、励起と測定モノクロメーターの帯域幅の間に充分な距離がある625/700 波長ペアを用いて測定しました(図 1)。

SoftMax® Pro ソフトウェアのスペクトル最適化ウィザードを使用し、近赤外アッセイに対する最適な励起と測定の波長ペアを自動で計算しました。加えて “Read Height Optimization” 設定を用いてアッセイに対する最適な高さを決定しました。実験で用いた波長と PMT ゲインは表 1 に示します。データ及びグラフは SoftMax Proソフトウェアを用いて生成しました。

図 1. 近赤外蛍光スペクトル
Cell Meter Deep Red ROS アッセイに対する励起及び蛍光スペクトルを上に示す。赤の点線は 650 nm にピークを持つ励起スペクトルを表し、赤の実線は 675 nm にピークを持つ蛍光スペクトルを表す。灰色のバーはアッセイ実行に用いられる最適化されていない波長ペアを表し、それに関連するモノクロメーター帯域幅はそれぞれ 15 nm (励起) と 25 nm (測定)である。

試験された波長ペア 励起 (nm) 測定 (nm) PMT ゲイン
スペクトル最適化ウィザード (近赤外) 629 696 Auto
625/700 (近赤外) 625 700 Auto
FITC (緑) 490 530 Auto

表 1. アッセイに対する波長と PMT 設定

図 2. 緑色蛍光細胞内 ROS 測定
メナジオン-処理された HEK293 細胞を Cell Meter Green Fluorescence Intracellular ROS アッセイを用いてアッセイし、4-パラメーター用量反応曲線を SoftMax Pro ソフトウェアで生成した。データから EC50 が 1.86 μM と計算した。

図 3. 近赤外蛍光細胞内 ROS 測定
スペクトル最適化ウィザードが決定した波長ペア (空色)は推定波長ペアと比べてより広いアッセイウィンドウを生じた。スペクトル最適化波長ペア及び推定ペアでの EC50 値はそれぞれ 2.10 μM と 2.21 μMとなった

試験された波長ペア EC50 (μM ) Z ファクター
スペクトル最適化ウィザード (近赤外) 2.10 0.89
625/700 (近赤外) 2.21 0.82
FITC (緑) 1.86 0.80

表 2. Cell Meter far-red assay に対する用量反応及び Z ファクター表
各アッセイから計算された EC50 値はほぼ同様の値で各アッセイは強固なアッセイであることを示す 0.5 より大きな Z ファクターを示した。

結果

メナジオンはミトコンドリア電子伝達系のいろいろな部分を遮ることにより細胞内 ROS の蓄積を引き起こす4 ため、メナジオン濃度の増加とともに細胞内 ROS レベルが増加することが期待されました。緑色蛍光アッセイキット及び近赤外蛍光アッセイキットにより、類似したEC50 値でのメナジオン用量反応曲線を生成しました(図 2 及び 3)。近赤外アッセイに対するスペクトル最適化ウィザードでの波長組み合わせにより、ベストな Z’ ファクターを得ることができました(表 2)。

結論

SpectraMax iD5 マルチモードマイクロプレートリーダーはSoftMax Pro ソフトウェアと共に、細胞内 ROS レベルの蛍光定量測定に対する優れたツールです。

SoftMax Pro ソフトウェアのスペクトル最適化ウィザードと測定高さ最適化機能は、ベストな結果のために自動的にアッセイ条件を最適化します。SpectraMax iD5 リーダーを用いて両アッセイ共に効率的な検出を行うことができましたが、最適化された励起と測定波長での近赤外アッセイの方が緑色蛍光ベースアッセイよりも僅かに良い Z’ ファクターを示しました。

PDFダウンロード

SpectraMax iD5マルチモードマイクロプレートリーダーについて問い合わせる

参考資料

  1. Hancock, J. T., R. Desikan, and S. J. Neill. “Role of reactive oxygen species in cell signalling pathways.” Biochem Soc Trans. (2001) May; 29 (Pt 2): 345-50.
  2. Ogawa K, Suzuki K, Okutsu M, Yamazaki K, Shinkai S. The association of elevated reactive oxygen species levels from neutrophils with low-grade inflammation in the elderly. Immunity & Ageing: I & A. 2008; 5:13. doi:10.1186/1742-4933-5-13.
  3. Lin, Michael Z. “Beyond the rainbow: new fluorescent proteins brighten the infrared scene.” Nature Methods 8.9 (2011): 726.
  4. Kolesova, G. M., L. V. Karnaukhova, and L. S. Iaguzhinskiĭ. “Interaction of menadione and duroquinone with Q-cycle during DT-diaphorase function.” Biokhimiia (Moscow, Russia) 56.10 (1991): 1779-1786.