共焦点画像によるスフェロイドのハイスループットスクリーニング

特徴

  • 20倍の倍率でひとつの視野にスフェロイド全体の画像取得
  • 96あるいは384ウェルプレートでスフェロイドの3D画像を取得
  • 共焦点システムを利用して、正確な細胞の画像を取得
  • Z軸断層画像群から2D画像を再構築して、データ保存スペースを節約

イントロダクション

近年、in vivoで使用するような実際の腫瘍細胞をin vitroの段階で使用するようになったため、薬の開発が目覚ましく発展しています。このような細胞を吸着の少ない特殊な丸底マイクロプレートで培養すると、ウェル内でスフェロイドを形成します。スフェロイドは、一般的な二次元(2D)の細胞と比較して、より腫瘍に近い振る舞いをするミミックと考えられています。これは多くの腫瘍と同じように、むき出しの表面で酸素が十分に供給され分裂を繰り返す細胞と、中心部奥深くで低酸素な環境で分裂を停止した細胞で構成されているためです。このような三次元(3D)構造をもつスフェロイドは、ガン治療薬の候補となる薬のスクリーニングに使用されています。再現性よくスフェロイドのアッセイを行うためには、次の条件が重要です。

  • すべてのウェルにおいてほぼ同じ位置にスフェロイドを存在させ、一度に画像取得できること
  • 色素や薬剤がスフェロイド内部までに確実に浸透し、かつスフェロイドの配置を乱さないこと
  • 3D 構造の画像取得時に、画像取得面の上下で焦点のずれやバックグラウンドノイズを最小限にできること
  • 迅速に結果が得られるように、画像取得に時間がかからないこと

スフェロイドの形成と前処理

マイクロプレートを使用したスフェロイド形成には、HCT116、DU145、HepG2のガン細胞が使用されました。細胞は37°C、CO₂濃度5%の条件で、フラスコを使用して培養され、その後フラスコから剥がして96ウェルないし384ウェルプレートに播種されました。プレートには、黒色で底面がU字型で透明なCorning社のプレート(製品番号4520ないし3830)を用いました。細胞はウシ胎児血清(FBS)を含む培地に、1ウェルあたり1000−1500細胞となるように播種されました。24時間以内に個々のウェルの底にスフェロイドが形成されました。37°C、CO₂濃度5%の条件で培養し2−4日後に、実験での使用に適した大きさのスフェロイドになりました(図1)。スフェロイドは4日以上培養することが可能かもしれませんが、この間もサイズが大きくなり続けるため、色素による染色や中心にある細胞の画像取得を妨げる可能性があります。このアプリケーションノートでは、Etoposide(エトポシド)、Paclitaxel(パクリタキセル)、Mitomycin C(マイトマイシン C)といった抗ガン作用を示す化合物の効果を測定しました。 スフェロイドが形成された各ウェルに、それぞれ10倍濃度の化合物を添加し、1−4日間培養を続けました。アポトーシスの確認は短期間で行い、複数のパラメーターの確認を必要とする細胞毒性は長期間のデータを取得しました。2日以上にわたる試験においては、1倍濃度の薬剤を調製し、2日ごとに新たに添加し直しました。

図1 :スフェロイドのハイスループットなスクリーニングを行う際のワークフロー
96ウェルあるいは384ウェルプレートを使用して、各ウェルに単一のスフェロイドを形成。その後、抗ガン剤を添加し、染色。洗浄を行わずに、画像を取得。(右図)HCT116細胞を用いて、63時間のタイムラプス画像を取得した。10倍の対物レンズおよびImageXpress Micro High-Content Screening Systemでスフェロイドを観察した。

スフェロイドの染色および画像取得

ここでは、HCT116細胞のスフェロイドにおける形態的な変化および評価に加え、ウェル内で生じるアポトーシスについてご紹介します。抗ガン作用を示す化合物を添加した後に、4−6倍濃度の色素をひとつの溶液にまとめ、培地に直接添加しました。スフェロイドに影響を与えないように、洗浄を必要としない色素を使用しました。スフェロイドの画像はImageXpress MicroHigh-Content Screening Systemを使用して、10倍もしくは20倍の倍率で取得されました。3D構造全体を通して細胞の応答を解析するためには、異なる水平面で画像を取得して『Z軸画像のスタックデータ(複数枚の画像の集合体)』を取得する必要があります。取得した画像は、数学的アルゴリズムを利用して各Zプレーンをまとめ上げて全焦点画像化し、1枚の2D画像を作製しました。ここではMetaXpress SoftwareのMaximumProjectionアルゴリズムが用られました。この方法では、スタック画像の最も明るい部分のピクセルを保ったまま2D画像を作製することが可能です(図2)。

図2 :(左図)共焦点システムによるZスタックで、スフェロイドのほぼ半分の厚みの画像を取得した。
(右図)Zスタックによる画像取得ではスフェロイドの一部の細胞にのみ焦点が合うため、解析が容易になるよう画像を合わせて2D画像を作成した。

ImageXpress Confocal Systemで得られた鮮明で境界がはっきりした画像

共焦点光学系は、全視野光学系と比較してスフェロイドをより薄い光学断層で画像取得することが可能です。この共焦点光学系の特長により、蛍光体により生じる画像面の上下のデフォーカスノイズ(画像ボケ)を大きく抑えます。また、三次元にクラスター化した、あるいは積み重なった状態の細胞の画像をより高解像度で取得することが可能です。これにより、共焦点光学系で得られた画像では、より精密な画像分割(セグメンテーション)を行うことができます。実際に、共焦点システムにより得られた画像における核の数は、全視野システムで測定されたものと比較して20%多かったです(図3)。

図3 :(上図)全視野光学系で得られたHCT116細胞スフェロイドの画像。ソフトウェアによる解析の結果、817個の核を検出した。スフェロイドの輪郭が蛍光により不鮮明であるため、核の検出ができない部分があった。
(下図)共焦点光学系で得られたHCT116細胞スフェロイドの画像。ソフトウェアによる解析の結果、1078個の核を検出できた。全視野光学系に比べて鮮明な画像が得られたため、より詳細な結果が得られた。

抗ガン剤によるアポトーシスのスクリーニング

抗ガン剤は細胞のアポトーシスを引き起こします。アポトーシスを評価するため、96ウェルプレートを使用して3日間培養したHCT116細胞のスフェロイドに、4種類の抗ガン剤を添加して24−48時間静置しました。抗ガン剤で処理した後、CellEventCaspaseならびにMitoTracker Orange試薬(Life Technologies製)で染色を行い、アポトーシスを検出しました。核染色用のHoechstを含めて4倍濃度の色素を各ウェルに添加しました。スフェロイドに影響を及ぼさないように、洗浄が不要な色素を使用しました(図4)。

アポトーシスアッセイに使用した色素 染色対象 終濃度
Hoechst 16.2µM(10µg/mL)
CellEvent Caspase 3/7 アポトーシス 7.5µM
MitoTracker Orange CMTMRos ミトコンドリアおよび
ミトコンドリア核様体
200nM

図4 :(上図)96ウェルプレートで形成したHCT116細胞スフェロイドの画像を、10倍のPlan Fluor対物レンズを用いて取得した。Hoechstで染色した核(青色)にCellEvent Caspase3/7(緑色)で染色したアポトーシスの画像を重ね合わせた。未処理のコントロールは4列目で、Caspase 3/7で染色したサンプルは5-7列目。5-7列目にはA行(1μM)のPaclitaxelを3倍に段階希釈し添加した。(左図)Z軸の11層の画像を重ね合わせて、2D画像を作成し、解析を行った。それぞれの画像において、アポトーシスを検出した。青色は核を、桃色はアポトーシスした細胞をそれぞれ示す。(右図)未処理のスフェロイドでアポトーシスの数でノーマライズ(規格化)し、グラフにプロットした。Paclitaxel(緑色)は、Mitomycin CやEtoposideよりもかなり低い濃度でアポトーシスを引き起こした。

ミトコンドリア膜電位のアッセイ

アポトーシスのスクリーニングにおいて、ミトコンドリア膜電位はMitoTracker Orangeを使用すると評価できます。ミトコンドリアの代謝に影響を与え、腫瘍細胞の成長を阻害する薬を別途評価しました。この評価にはAnitimycin A(アンチマイシン A)を使用しました。Anitimycin Aにはミトコンドリアの膜電位をかく乱する作用があります。Anitimycin A添加4時間後、スフェロイド内の正常なミトコンドリアはMitoTrackerOrangeの蛍光により検出可能でした。MitoTrackerがスフェロイドの中心にまで完全に浸透しない、もしくはスフェロイドに正常なミトコンドリアが存在しない場合、ミトコンドリア由来の蛍光画像は得られませんでした(図5)。

図5:Antimycin Aのミトコンドリアに対する毒性
(上図)スフェロイドにAntimycin Aを添加してHoechst(青色)とMitoTracker(オレンジ色)で染色し、重ね合わせた画像。Antimycin Aの濃度を122.67-200nMに変化させた。
(下図)スフェロイドの中でミトコンドリアの平均シグナル強度をプロットし、抗ガン剤の影響を確認した。

マイクロプレート内のスフェロイドの3D画像を迅速にスクリーニング

ほぼ均一な大きさでヒトのガン細胞スフェロイドを形成し、自動化されたハイスループット・ハイコンテントイメージングでそれらのスクリーニングを行うことは、抗ガン剤候補の化合物に対する、より現実に即した試験を可能にします。ImageXpress MicroHigh-Content Confocal Imageing SystemとMetaXpress Image Analysis Softwareを利用すると、次のことが可能になります。

  • 迅速な画像取得
  • マイクロプレートで形成したスフェロイドに抗ガン剤を添加して、アポトーシスやミトコンドリア毒性の3Dモニタリングおよび解析

 

 

スフェロイドのスクリーニングアッセイの詳細なパラメーターに関しましては、次の論文をご参照ください。
Sirenko, O. et al., High-Content Assays forCharacterizing the Viability and Morphology of3D Cancer Spheroid Cultures. Assay and DrugDevelopment Technologies, 2015 In Press.